紫外線によるDNA損傷と修復能力の限界|蓄積されたダメージがシミ・イボになる過程

本記事では、長年の紫外線曝露が細胞核内の遺伝情報にどのような物理的変化をもたらし、生体が本来持つ修復機能がなぜ追いつかなくなるのかを解説します。
私たちの肌は日々、太陽光による攻撃を受け、DNA配列の誤作動と戦っています。しかし、加齢とともに修復酵素の働きは低下し、修正しきれなかった「エラー」が蓄積します。
このミクロな損傷が、いかにして目に見えるシミや隆起したイボへと変貌を遂げるのか、その病理的背景と肌内部の真実を明らかにします。
過去の紫外線をなかったことにはできませんが、今起きている現象を正しく理解することは、未来の肌を守るための第一歩となります。
遺伝子レベルで見る肌の老化と紫外線の直接的影響
紫外線が肌に当たった瞬間、表皮細胞の核内ではDNA構造そのものが物理的な衝撃を受け、正常ならせん構造を維持できなくなる現象が発生します。
私たちは普段、日焼けによる赤みや黒化といった目に見える反応ばかりに気を取られますが、真に恐れるべきは細胞の設計図であるDNAへの直接的な攻撃です。
紫外線は単なる熱エネルギーではなく、物質の化学結合を切断したり、異常な結合を作り出したりする強力なエネルギーを持っています。
この章では、目には見えない遺伝子レベルでの破壊活動がどのように進行するのか、その実態を紐解きます。
DNAの二重らせん構造が破壊される瞬間
私たちの細胞核に存在するDNAは、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4つの塩基が特定のペアを組んで並ぶことで、生命維持に必要なタンパク質を作る情報を保持しています。
しかし、紫外線、特にUVBが細胞核に到達すると、DNAはこのエネルギーを直接吸収してしまいます。この吸収されたエネルギーは隣り合う塩基同士、特にチミン同士を無理やり結合させてしまいます。これを「ピリミジン二量体」と呼びます。
本来結びつくべき対岸の塩基(アデニン)と手を繋げなくなったチミンは隣のチミンと強固に結合し、DNAの鎖にコブのような歪みを生じさせます。この歪みは細胞分裂の際にDNAを複製する酵素が情報を読み取ることを妨げます。
読み取れない情報はエラーとなり、誤った遺伝情報が次の細胞へと受け継がれる原因となります。これがDNA損傷の物理的な正体であり、肌老化の根本的な引き金となります。
活性酸素が生み出す間接的なDNA攻撃
紫外線による被害はDNAへの直接的な攻撃だけにとどまりません。紫外線、特に波長の長いUVAは細胞内の水分やその他の分子に作用し、活性酸素種(ROS)を大量に発生させます。
この活性酸素は極めて反応性が高く、細胞内のあらゆるものを酸化させようと暴れ回ります。
8-OHdGという酸化損傷マーカー
発生した活性酸素はDNAを構成する塩基の一つであるグアニンを酸化させ、「8-ヒドロキシ-2′-デオキシグアノシン(8-OHdG)」という変異物質に変えてしまいます。
酸化されたグアニンは本来結合すべきシトシンではなく、誤ってアデニンと結合してしまう性質を持ちます。この読み違えが突然変異(ミューテーション)を引き起こし、細胞のガン化や機能不全を招きます。
直接的な紫外線エネルギーによる破壊と、活性酸素による化学的な酸化攻撃の二重苦により、肌細胞の遺伝情報は常に脅かされています。
細胞死か突然変異か、細胞に突きつけられる選択
DNA損傷を受けた細胞は、自らの運命を決定しなければなりません。損傷が軽微であれば修復を試みますが、修復不可能なほどの重篤なダメージを受けた場合、細胞は「アポトーシス」と呼ばれる自死プログラムを作動させます。
これは、異常な遺伝子を持ったまま分裂し、ガン化することを防ぐための生体の防御システムです。日焼けをした後に皮がむける現象は、まさにこのアポトーシスによって死滅した細胞が脱落している姿です。
しかし、中には死ぬこともできず、かといって完全に修復もできないまま生き残ってしまう細胞が存在します。これらの細胞が将来的にシミやイボ、さらには皮膚がんへと発展する「種」として皮膚内部に潜伏することになります。
波長の違いが生む異なる破壊パターンと到達深度
地上に届く紫外線にはUVAとUVBの2種類が存在し、それぞれが異なる波長とエネルギーを持ち、肌への侵入深度や破壊の質が大きく異なります。
UVAは生活紫外線とも呼ばれ、窓ガラスを透過し真皮層までじわじわと到達する一方、UVBはレジャー紫外線と呼ばれ、主に表皮で強烈なエネルギーを炸裂させます。
どちらか一方だけを防げば良いというものではなく、両者が異なるルートでDNA損傷と肌老化を進行させる事実を理解することが重要です。
UVBが引き起こす表皮細胞への直接的打撃
UVBは波長が短くエネルギーが強いため、その多くは肌の表面である表皮で吸収されます。先述した「ピリミジン二量体」の形成など、DNAへの直接的な損傷の大部分はこのUVBによって引き起こされます。
表皮には肌の色を決めるメラニン色素を作り出すメラノサイトや、新しい細胞を生み出す基底細胞が存在しており、ここが集中的に攻撃を受けることになります。
短時間で肌を赤く炎症させるサンバーンもUVBの仕業です。急激な炎症は細胞内のシグナル伝達を混乱させ、メラノサイトを過剰に刺激します。
UVBによる損傷は「質的な変化」をもたらしやすく、細胞の設計図そのものを書き換えてしまうリスクが高いのが特徴です。
UVAが招く真皮層の構造的崩壊と光老化
一方でUVAはエネルギーこそUVBより弱いものの、波長が長く、物質を透過する能力に長けています。表皮を通り抜け、肌の弾力を司る真皮層にまで到達します。
UVAの主な作用は活性酸素の発生による酸化ストレスです。真皮にあるコラーゲンやエラスチンといった線維組織を切断・変性させるだけでなく、これらを作り出す線維芽細胞のDNAにも損傷を与えます。
シワやたるみの主犯格
UVAによるダメージは即座には目に見えません。赤くなることも少なく、痛みも伴わないため、無防備に浴び続けてしまう傾向があります。
しかし、長年にわたり蓄積したUVAダメージは真皮の構造をスカスカにし、深いシワやたるみといった「光老化」の主原因となります。
DNA損傷という観点では、UVAは変異を誘発するだけでなく、修復酵素そのものの機能を低下させる働きも指摘されています。
各紫外線の特性と肌への影響の整理
紫外線プロファイルと損傷の分類
| 紫外線の種類 | 波長と到達深度 | 主な損傷のメカニズム |
|---|---|---|
| UVB(中波長) | 表皮中心・高エネルギー | DNA分子に直接吸収され、二量体を形成して遺伝情報を歪ませる |
| UVA(長波長) | 真皮まで到達・透過性高 | 活性酸素を発生させ、間接的にDNAを酸化(サビ)させ変異を招く |
| 可視光線・近赤外線 | 皮下組織・筋肉層 | 近年、微弱ながらも活性酸素の発生に関与し、UVAの影響を増幅させることが判明 |
生体に備わるDNA修復機能とその精緻な働き
私たちの体には、毎日発生する何万箇所ものDNA損傷を常時監視し、即座に修理する高度なシステムが備わっています。損傷の種類に応じて異なる修復部隊が出動し、元の正しい塩基配列へと復元する作業を絶え間なく行っています。
この自己修復能力があるからこそ、私たちは毎日の日光浴で即座に皮膚がんになることなく生活できています。ここでは、細胞内で行われている驚異的な修復作業の全貌を解説します。
ヌクレオチド除去修復(NER)による歪みの切除
UVBによって生じたピリミジン二量体のような、DNAのらせん構造を大きく歪ませる損傷に対しては、「ヌクレオチド除去修復(NER)」というシステムが働きます。
まず、パトロール役のタンパク質がDNA上の歪みを発見すると、修復チームを呼び寄せます。修復チームは、損傷部分を含む前後の短いDNA鎖ごとバッサリと切り取ります。
切り取られた部分は一時的に空白になりますが、反対側の鎖に残っている正常な情報を鋳型として、DNAポリメラーゼという酵素が正しい塩基を埋め込み、最後にリガーゼという糊のような酵素が隙間を繋ぎ合わせます。これにより、歪みのない綺麗な二重らせん構造が蘇ります。
塩基除去修復(BER)による酸化ダメージの置換
UVAなどが生み出す活性酸素によって塩基が酸化変性(8-OHdGなど)した場合、DNAの形状そのものは大きく歪まないため、NERとは異なる「塩基除去修復(BER)」というシステムが採用されます。
グリコシラーゼの精密な作業
ここではDNAグリコシラーゼという酵素が主役となります。この酵素は損傷した特定の塩基だけをピンポイントで見つけ出し、その塩基部分のみを引き抜きます。
その後、骨格部分を切開し、正しい塩基を一つだけ埋め戻すという非常に細かい作業を行います。損傷が小規模であるため見逃されやすいのですが、BERは高頻度で発生する酸化ダメージに対抗する重要な砦です。
修復機能の対応と役割分担
損傷タイプ別修復システム
| 修復システム名称 | 主な対象となる損傷 | 修復の手順と特徴 |
|---|---|---|
| ヌクレオチド除去修復 | 紫外線による二量体形成 | 損傷部位周辺を大きく切り取り、再合成する。大掛かりだが確実性が高い |
| 塩基除去修復 | 活性酸素による塩基酸化 | 変質した塩基のみをピンセットのように除去し、置換する精密作業 |
| 相同組換え修復 | DNAの二本鎖切断 | 両方の鎖が切れた重篤な損傷に対し、姉妹染色分体の情報をコピーして直す |
p53遺伝子が果たす司令塔としての役割
これら全ての修復活動を統括しているのが、「ゲノムの守護神」と呼ばれるp53遺伝子です。DNA損傷を検知すると、p53は細胞分裂を一時停止させ、修復のための時間を確保します。
同時に修復酵素の産生を促し、現場へ送り込みます。もし損傷が修復能力を超えていると判断した場合は、潔くアポトーシス(細胞死)を誘導します。
このp53自体が紫外線によって変異してしまうとブレーキの壊れた車のように異常な細胞が増殖を始め、日光角化症や皮膚がんへの道を突き進むことになります。
修復能力の限界とエラー蓄積の加速要因
どれほど優れた修復システムを持っていても、その能力には明確な限界が存在し、年齢や環境要因によって機能は確実に低下していきます。
修復が追いつかないほどの過剰なダメージを受けた場合、あるいは修復酵素自体が不足した場合、誤った遺伝情報はそのまま細胞内に定着してしまいます。
なぜ私たちの体はダメージを直しきれなくなるのか、その「限界点」を超える要因について考察します。
加齢に伴う修復酵素の減少と機能低下
最も大きな要因は加齢です。若い頃は活発に働いていたDNA修復酵素も、年齢とともにその産生量や活性が低下します。特にNER(ヌクレオチド除去修復)の効率は加齢とともに著しく落ちることが研究で示されています。
若い頃なら一晩で治せたレベルの紫外線ダメージでも、40代、50代の細胞では修復に数日かかったり、あるいは修復しきれずに放置されたりします。この「直し残し」が、年々借金のように細胞核内に降り積もっていきます。
子どもの頃に浴びた紫外線が数十年後にシミとして現れるのは、当時のダメージが潜伏していただけでなく、加齢によって今の修復力が低下し、抑え込んでいた異常が表面化した結果とも言えます。
修復エラーを招く環境的・身体的要因
- 反復する慢性的な紫外線曝露
修復作業が完了する前に次の紫外線を浴びてしまうと修復システムがパンクする。毎日の洗濯物を干す時間や通勤時のわずかな日差しも、積み重なれば修復能力のキャパシティを超過させる。 - 抗酸化力の低下
加齢やストレスにより体内の抗酸化物質が減少すると活性酸素の除去が追いつかなくなる。これによりDNAへの酸化攻撃が増加し、修復システムの負担が増大。 - 修復遺伝子自体の変異
DNAを直すための酵素を作る遺伝子そのものが紫外線で損傷することがある。修理工が怪我をして動けなくなるようなもので、これにより修復機能は壊滅的な打撃を受ける。
「変異の固定化」が意味するもの
修復されなかったDNAの傷は、次の細胞分裂の際に「誤った情報」として正規にコピーされてしまいます。これを「変異の固定化」と呼びます。
一度固定化されてしまった変異は、もはや傷ではなく「その人の新しい遺伝情報」として扱われるため、修復酵素は見向きもしなくなります。
異常細胞のクローン増殖
固定化された変異を持つ細胞が分裂すると、その子孫細胞も全て同じ変異を持つことになります。これが異常な細胞集団(クローン)の形成です。
肌の一部でメラニンを作り続ける異常なクローンが増えればシミになり、角化異常を起こすクローンが増えればイボになります。修復能力の限界を超えた時、肌は不可逆的な変化への一歩を踏み出すのです。
メラノサイトの暴走と情報伝達異常によるシミの形成
DNA損傷が修復されずに固定化された結果、最も身近に現れるトラブルが「シミ(老人性色素斑)」です。
これは単にメラニン色素が溜まっているだけでなく、メラノサイト(色素細胞)とその周囲の細胞(ケラチノサイト)との間で交わされる情報伝達に恒久的なエラーが生じている状態です。
なぜ紫外線対策をしていても、一度できたシミは消えず、濃くなり続けるのか。その背景には、遺伝子レベルで書き換えられた「メラニン製造命令」の暴走があります。
ケラチノサイトからの「作れ」という誤指令
シミの形成において主導権を握っているのは、実はメラニンを作るメラノサイトそのものよりも、その周りを取り囲む表皮細胞(ケラチノサイト)の方です。
紫外線を浴びてDNA損傷を受けたケラチノサイトは、自らを守るために「メラニンを作って傘のように核を守れ」という指令物質(エンドセリンやSCFなど)を放出します。通常であれば紫外線がなくなりDNA修復が完了すれば、この指令は止まります。
しかし、DNA変異が固定化されたケラチノサイトは紫外線が当たっていないにもかかわらず、「攻撃されている!」と勘違いし続け、恒久的に指令物質を出し続けるようになります。これがシミの部位で起きている「情報の誤作動」です。
メラノサイト自体の変異と居座り
指令を受け取る側のメラノサイト自体にも変化が生じます。長年のダメージ蓄積により、メラノサイトの増殖や活性化を制御する遺伝子に変異が入ると必要以上に大型化したり、本来あるべき数以上に増殖したりします。
代謝サイクルの停滞
さらに、正常な肌であればメラニンを含んだ細胞はターンオーバーによって垢として排出されます。
しかし、慢性的な炎症状態にあるシミ部分の細胞は、代謝機能が低下し、排出のサイクルが遅延します。過剰生産と排出遅延のダブルパンチにより、表皮内に大量のメラニンが滞留し、茶色い色素斑として定着します。
正常な防御反応とシミ形成の病的な違い
メラニン生成の正常と異常の比較
| 比較項目 | 正常な日焼け(サンタン) | シミ(老人性色素斑) |
|---|---|---|
| 生成のきっかけ | 一過性の紫外線刺激に対する防御 | DNA変異による恒久的な誤指令 |
| 指令の持続性 | 紫外線がなくなれば停止する | 刺激がなくても常に「作れ」と命令 |
| 色素の分布 | 表皮全体に均一に広がり、やがて消える | 局所的に塊となって深部に蓄積・停滞 |
角化細胞の異常増殖とイボへの物理的変化
シミが「色の異常」であるのに対し、イボ(脂漏性角化症)は「形の異常」です。これはDNA損傷の影響がメラニン生成系だけでなく、細胞の増殖制御システムにまで及んだ結果です。
平坦だった肌がなぜ盛り上がり、硬くザラザラとした組織へと変貌するのか。そこには、細胞の寿命を無視して増え続ける、腫瘍に近いメカニズムが働いています。
FGFR3遺伝子の変異と細胞増殖シグナル
加齢によるイボの多くで、「FGFR3」という遺伝子に変異が見つかることが分かっています。この遺伝子は、本来であれば細胞の増殖を適切にコントロールする役割を持っています。
しかし、紫外線による変異でこのスイッチが「常にON」の状態になってしまうと細胞はブレーキを失い、必要もないのに分裂を繰り返します。表皮の基底層で生まれた細胞が通常よりも速いスピードで分裂し、上へ上へと積み重なっていきます。
しかし、剥がれ落ちるスピードは変わらないか、むしろ遅くなるため、行き場を失った細胞たちは表皮を厚くし、外部へと隆起せざるを得なくなります。これがイボの盛り上がりの正体です。
アポトーシス抵抗性の獲得
さらに厄介なことに、イボを構成する細胞はアポトーシス(細胞死)に対する抵抗性を獲得しています。
本来、異常な増殖をした細胞や古い細胞は死んで排除されるべきですが、BCL-2などのアポトーシス抑制タンパク質が過剰に発現し、「死なない細胞」として居座り続けます。
角層の肥厚と色素の巻き込み
増殖した細胞は角化(硬くなること)の過程でも異常を来たし、分厚く重なり合って「過角化」の状態を作ります。
この分厚い角質の塊の中に、同時に暴走したメラノサイトが作った大量のメラニンが閉じ込められるため、イボは褐色から黒色の塊として見えます。
シミからイボへ移行するケースが多いのは、DNA損傷の範囲が拡大し、色素異常に加えて増殖異常が併発したためと考えられます。
シミとイボの生物学的特性の違い
病変の性質比較
| 特徴 | シミ(老人性色素斑) | イボ(脂漏性角化症) |
|---|---|---|
| 主な異常 | メラノサイトの機能亢進(色の問題) | ケラチノサイトの増殖異常(形の問題) |
| 皮膚の形状 | 平坦(フラット) | 隆起、表面の凸凹、ザラつき |
| 関与する遺伝子 | エンドセリン、SCFなどのサイトカイン関連 | FGFR3、PIK3CAなどの増殖シグナル関連 |
光老化と自然老化の決定的な違いと真皮への影響
私たちが「老化」と呼んでいる肌の変化の約80%は加齢そのものではなく、紫外線による「光老化」です。
年齢を重ねるだけで生じる自然老化(生理的老化)と紫外線を浴び続けた結果の光老化は、組織学的に全く異なる様相を呈します。太陽の当たらないお尻の皮膚が、高齢になっても滑らかで白いままであることがその証拠です。
ここでは、光老化がいかに特殊で破壊的な現象であるかを、真皮の構造変化から解説します。
MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)によるコラーゲン分解
紫外線、特にUVAを浴びた線維芽細胞やケラチノサイトは、「MMP」と呼ばれるコラーゲン分解酵素を過剰に分泌します。
本来、MMPは古くなったコラーゲンを分解し、新陳代謝を助けるために必要です。しかし、光老化を起こした肌ではこの酵素が暴走し、新しくて健康なコラーゲンまでも見境なく切断してしまいます。
その結果、真皮を支える柱が失われ、皮膚は厚みと弾力を失います。自然老化でもコラーゲン産生は減りますが、光老化では「作る量が減る」だけでなく「積極的に壊される」という負のスパイラルが発生するため、シワの深さと進行速度が圧倒的に異なります。
ソーラーエラストーシス(日光弾性線維症)の出現
光老化特有の現象として、「ソーラーエラストーシス」が挙げられます。これは破壊されたエラスチン線維が異常な塊となって真皮上層に沈着する現象です。
正常なエラスチンは綺麗な網目構造をして弾力を保ちますが、変性したエラスチンはグチャグチャに固まり、機能を持たないゴミのようなタンパク質として蓄積します。
深く刻まれるシワの原因
この異常物質が真皮を占拠することで肌は本来のしなやかさを失い、ゴワゴワとした革のような質感になります。
表情の動きに合わせて折れ曲がった皮膚が元に戻らなくなり、深く太いシワが定着します。これは自然老化では決して起こらない、紫外線ダメージ特有の組織変化です。
老化タイプの比較と可視化されるサイン
- 自然老化の肌
全体的に薄くペラペラになる(菲薄化)。乾燥しやすいが、深いシワや色ムラは比較的少ない。細かなちりめんジワが中心。 - 光老化の肌
初期は炎症で厚くなることもあるが、深いシワ、たるみ、ゴワつきが顕著。黄色くくすんだ色調になり、血管拡張(赤ら顔)や不規則な色素沈着を伴う。 - 回復の難易度
自然老化は保湿等である程度補えるが、光老化による構造破壊(エラストーシス等)は、化粧品レベルでの修復が極めて困難であり、医療的な介入が必要になるケースが多い。
老化要因の対比まとめ
自然老化と光老化の特徴差
| 比較要素 | 自然老化(生理的老化) | 光老化(紫外線老化) |
|---|---|---|
| 主な原因 | 細胞分裂寿命、ホルモン低下 | 紫外線曝露、活性酸素によるDNA損傷 |
| 真皮の状態 | 全体的な萎縮、コラーゲン減少 | 変性エラスチンの塊状沈着、組織の破壊 |
| 見た目の特徴 | 細かいシワ、皮膚の弛緩、蒼白 | 深いシワ、深い溝、黄ばみ、シミ、イボ |
よくある質問
- 既にできてしまったDNA損傷をなかったことにできますか?
-
残念ながら、一度固定化(変異として定着)してしまったDNA損傷を化粧品やサプリメントで完全に元の配列に戻すことは現在の科学では不可能です。
変異した細胞は、その誤った遺伝情報を持ったまま分裂を続けます。しかし、これ以上の損傷の蓄積を防ぎ、修復システムの負担を減らすことは可能です。
日焼け止めによる防御、抗酸化成分の摂取、そして睡眠や栄養による細胞代謝のサポートを行うことで未固定の損傷を修復し、将来のリスクを最小限に抑えることは十分に意義があります。
- 若い頃に焼いていた場合、今から対策しても手遅れですか?
-
決して手遅れではありません。確かに過去の蓄積(光老化の借金)は存在しますが、肌老化の進行は「過去のダメージ」+「現在のダメージ」で決まります。
今から徹底的な遮光を行うことで、新たなDNA損傷を食い止め、MMP(コラーゲン分解酵素)の暴走を鎮めることができます。
実際、厳しい紫外線対策を数ヶ月続けるだけで真皮の修復機能がある程度回復し、肌のキメやトーンが改善するというデータも存在します。今日浴びる紫外線を防ぐことが、5年後の肌を変えます。
- 日焼け止めは室内でも塗る必要がありますか?
-
はい、必要です。特にUVA(紫外線A波)は波長が長く、窓ガラスを容易に通過します。UVAは即座に赤くはなりませんが、真皮の奥深くまで届き、DNAへの酸化ダメージを静かに蓄積させ、シワやたるみの原因となります。
窓辺で過ごす時間が長い場合や、日当たりの良い室内にいる場合は、SPF値よりもPA値(UVA防御指数)を重視した日焼け止めを日常的に使用することをお勧めします。
- DNA修復を促進すると謳う化粧品は効果がありますか?
-
「DNA修復」という言葉は薬機法上、化粧品の効果として謳うことはできません。
しかし、一部の成分(特定の酵素抽出物やビタミン類など)には試験管レベルや皮膚モデルにおいて、修復メカニズムをサポートしたり、損傷の原因となる活性酸素を除去したりするデータを持つものも存在します。
これらは直接遺伝子を書き換えるものではありませんが、肌本来の環境を整え、修復システムが働きやすい状態を作るという意味では、スキンケアの一環として取り入れる価値があると考えられます。
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